「がんの理科」では、がんの医療技術を取り上げます。
近年、さまざまな医療技術の開発が、身体の負担をなるべく減らしたがん治療を可能にしています。
また、医療技術は、がん治療がも
たらす精神的な苦痛を和らげるこ
とにも貢献しています。
いま、がんと診断されたらどのよ
うな治療がおこなわれるのでしょ
うか?
“最先端”や“高額”の治療が優れているとイメージする人がいるかもしれません。しかし、研究段階や自費の治療にはまだ効果や副作用が証明できていない治療が多くあります。治療効果や安全性が科学的に確認され、現時点の日本でもっとも推奨されている治療が「標準治療」で、日本のがん治療の指針となっています。
メスなどの器具を使って、がんや臓器の一部を外科的に取り除く治療。
がんに放射線を当てることでがん細胞のDNAに損傷を与え、死滅させる治療。外から放射線を当てる方法が一般的ですが、体内に放射性物質を挿入したり、飲み薬や注射で取り入れたりする方法もあります。
飲み薬や注射・点滴によってがん細胞を死滅させたり、がんの進行を抑えたりする治療。薬の成分が全身に広がって効果を発揮します。
手術・放射線治療・
薬物療法は、単独または
組み合わせておこないます。
がんの治療は
「体に優しく、より正確に」
手術
傷は「大きく」から
「小さく」へ小さな穴から内視鏡や器具を入れておこなう手術が普及しました。傷が小さいため出血や術後の痛みが少なく、回復が早いなどのメリットがあります。
この内視鏡手術をさらに進化させたのが「ロボット支援手術」。3Dカメラや、人間の手首以上の可動域を持つロボットアームを使用することで、これまでは難しかった角度から体内を見たり、手ぶれをコントロールし、より精密な手術が可能になりました。放射線治療
がんを狙い撃つ技術
がんをピンポイントで狙い、その周りの正常な組織へのダメージを抑える技術が進んでいます。
例えば放射線治療装置とCTが一体となった「トモセラピー」は、がんや周囲の臓器の位置を正確に把握し、様々な方向からがんの形に合わせて放射線を照射します。放射線の量や強さをコントロールしながら照射することで、周りの健康な臓器への影響を最小限に抑えます。薬物療法
新薬の開発は
“がん治療の革命”がん細胞の特定の分子だけに作用する「分子標的薬」によって、正常な細胞へのダメージが少なく、薬による副作用を軽減できるようになりました。
ノーベル賞で注目が集まった「免疫チェックポイント阻害薬」は、がん細胞が免疫細胞の働きを邪魔することを防ぎ、免疫細胞本来の攻撃力を取り戻すことで、効果を発揮させる薬です。
がん治療と
同時に
始めるケア
緩和ケアは、がんが進行した時期から受けるものと思われがちですが、病気の進行度にかかわらず、診断された直後から、がんの治療と並行して受けられます。がん治療に伴う痛みや吐き気、しびれなど身体的な症状のコントロール、がんと診断されたことや検査・治療の過程で生じる不安やうつなどの心理的な苦痛を和らげます。
がん患者さんの苦痛とは?
トータルペインがん患者さんが感じる苦痛
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身体的苦痛
- ●痛み、苦しさ、倦怠感などの身体の症状
- ●日常生活動作の支障
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社会的苦痛
- ●経済的な問題
- ●仕事上の問題
- ●家庭内の問題
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スピリチュアルな苦痛
- ●生きる意味への問い
- ●死への恐怖
- ●「なぜ自分ががんになってしまったんだろう」
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精神的苦痛
- ●不安
- ●いらだち
- ●気分の落ち込み
すべての苦痛を
医療の技術で
緩和するのが「緩和ケア」
痛みの症状を
コントロールする医療技術
医療用麻薬
痛みのコントロールには「医療用麻薬」が使われます。法律で医療用に使うことが許可されている鎮痛薬で正しく使用すれば依存性がなく、痛みの緩和に効果があります。
緩和的放射線治療
がんが転移することによっておこる痛みや神経症状を緩和する他、がんによって気管や消化管が狭くなったり、閉塞したりする症状を改善します。
神経ブロック療法
神経の伝達機能を抑制または遮断することで、痛みを感じなくする治療法です。痛みのある部分だけに作用して、全身の状態にはほとんど影響がありません。